(2007年度)

[2007-01]
・「99%の誘拐」 岡島二人(Futari OKAJIMA)(講談社文庫),ISBN4-07-274787-1, 1988)
 「クラインの壺」の岡島二人の作品
.完全犯罪(誘拐)を行うには完璧なアリバイが必要であり,それを実現するための一つの方法は...とカラクリを考えてから小説を作ったのでしょうが,その割にはボロが多過ぎて完全犯罪は成立し無さそう.かなり無理がある上に動機(怨恨)もみえみえ.本来の読書の楽しみとは逆の意味で最後までドキドキしてしまった.

[2007-02]
・「DZ(ディーズィー)」 小笠原 慧
(Kei OGASAWARA)(角川文庫),ISBN4-04-370501-8, 2000)
 著者は精神科医の医学博士(小笠原はペンネーム).専門知識+αのバイオテクノロジー技術も取り入れたアカデミック風土溢れる作品.アカデミックな部分もバイオテクノロジーの部分もドロドロとした部分を前面に出しているので気分が悪くなる人もいるかも知れないが,個人的には面白かった.

[2007-03]
・「推理小説」 秦 建日子
(Takehiko HATA)(河出文庫),ISBN4-309-40776-5, 2004)
 TVドラマ,そして映画化された作品,「アンフェア」の原作

[2007-04]
・「ハイ・フィデリティ」 (High Fidelity)  ニック・ホーンビィ (Nick HORNBY)/森田義信[訳](新潮文庫),ISBN4-10-220211-0, 1995)
 ジョン・キューザック主演で映画化された同名映画同様,猛烈に面白い.膨大な量の解説(訳注)は「不思議の国のアリス」を越える(笑).ちなみに High Fidelityとは”高再現性”の意味であり,近頃は廃れた表現,”Hi−Fi”のこと.オーディオ,ヴィジュアル系のテクニカルタームです.”はいふぁい”,ああ,グッと来る響き...

[2007-05]
・「アバウト・ア・ボーイ」 (about a boy)  ニック・ホーンビィ (Nick HORNBY)/森田義信[訳](新潮文庫),ISBN4-10-220213-7, 1998)
 同じくニック・ホーンビィ.「ハイ・フィデリティ」の後に出版された作品.著者も訳者も同じなのだが,「ハイ・フィデリティ」ほど面白くない.なのに同名映画が猛烈に面白かったのは主演のヒュー・グラントのキャラクタとストーリーを微妙に変更した監督の力量とみて間違いない.

[2007-06]
・「致死性ソフトウェア(上/下)」  (VIRUS)  グレアム・ワトキンス (Graham WATKINS)/大久保 寛[訳](新潮文庫),ISBN4-10-208912-8, 1995)
 ちょっと懐かしい.Windows95の発表される直前,まだMS-DOSも現役で頑張っていた時代のパソコン文化がプンプンと溢れている.常駐型ソフトウェア(TSR)が人為的な操作も加わって予想以上の進化を遂げ,集団意識を持つという話.ウィルスソフトウェアの話ではあるが,それよりも常駐型ソフトウェア,という,いまでは敢えてそのような名前では呼ばなくなったテクノロジーが基盤になってクラスターコンピューティングのような話まで展望を広げるというのは時代的な背景から考えて,グレアム・ワトキンスという人物(かなり異才のヒトらしい)の妄想が正しいということ.いまの時代に読んでも古く感じない.EMMといったキーワードに「ニヤリ」とする古参のPCマニアのハートもグッと掴む.

[2007-07]
・「Y」 佐藤正午 
(Shogo SATO) (ハルキ文庫),ISBN4-89456-858-6, 1998)
 作中でも触れられているように,名作「リプレイ」(ケン・グリムウッド)に似た話.しかし,「リプレイ」で主人公は死亡する度にタイム・リープするのに対し,この作品では主人公が意図的にタイミングを待ってタイム・リープ(自由なときにジャンプできるわけではない)する点が大きく異なる.

[2007-08]
・「アトランティスを発見せよ(上/下)」  (ATLANTIS FOUND)  クライブ・カッスラー (Clive CUSSLER)/中山善之[訳](新潮文庫),ISBN4-10-217027-8, 1999)
 (個人的に)説明は不要.いつも通りのダーク・ピットシリーズ.

[2007-09]
・「ダ・ヴィンチ・コード(上中下)」  (THE DA VINCI CODE)  ダン・ブラウン (Dan BROWN)/越前敏弥[訳](角川文庫),ISBN4-04-295505-3, 2003)
 これは広く一般的に説明不要でしょう.映画も観ましたが,原作の方が面白かったでしょうか.ただ,作中でGM製の小型自動車SMARTを「1リッターで100km走る」と書いてあるが,それはさすがに間違いでしょう.50ccのホンダJazz号(原付)でも50km程度でしたから.いや,まぁ,どうでもいい話ですね.

[2007-10]
・「半落ち」 横山秀夫 
(Hideo YOKOYAMA) (講談社文庫),ISBN4-06-275194-1, 2002)
 オチ以外は重厚な人物造詣も含めて面白かった.映画もTV放映されたので観たのだが感想は同じ.やはり主人公が自殺しなかった理由としては無理がある.ハートウォーミングな話ではないから,という理由ではなく,骨髄移植に関わった者として,オチ以外は面白かった作品の土台としては薄弱な”根拠”に利用されたのは面白くない.仲間由紀恵のドラマ(故夏目雅子)の方が良かったなぁ.

[2007-11]
・「ダックスフントのワープ」 藤原伊織 
(Iori FUJIWARA) (文春文庫),ISBN4-16-761401-4, 2000)
 「テロリストのパラソル」などの作者,藤原伊織の短編集.文学作品です.ちょっと気恥ずかしい.

[2007-12]
・「マンハッタンを死守せよ(上/下)」  (VALHALLA RISING)  クライブ・カッスラー (Clive CUSSLER)/中山善之[訳](新潮文庫),ISBN4-10-217028-6, 2001)
 やはりカッスラーは凄いなぁ.「アトランティスを発見せよ」は面白いけれども仕掛けが単純で驚きが少なかったのに比べて,この作品は歴史ネタが盛りだくさんで驚きに溢れている.これでこそダーク・ピットシリーズ.ちょっとマンネリ気味の作品の連続に不満気味だったファン心がスカッと晴れましたね.

[2007-13]
・「タイムスリップ森鴎外」 鯨 統一郎 (Toichiro KUJIRA)(講談社文庫),ISBN4-06-275138-0, 2005)
 何者かに命を狙われた森 鴎外.真夜中の団子坂から崖下に突き落とされた直後,ハッと気が付くと現代の渋谷にタイムスリップしていた.不良(というより犯罪者?)に絡まれていたところを助けてくれた女子高生,麓 麗(ふもと うらら)とその友人たちの協力で,暗殺者の正体を明かし,元の時代に戻ることができるのか? 文学テイストをまぶしたライトノベルと言って良いでしょう.半端な森鴎外に関する知識を持つ人ほどハマる可能性が高い.荒唐無稽なストーリーとご都合主義のせいでただでさえ加速感が高いところに加えて,ちょっと知識欲も刺激されるものだから簡単に本を閉じることができなくなる.作者は覆面作家らしい.本業は何かは分からないが,デビュー作は1998年のデビュー作「邪馬台国はどこですか?」以降も精力的に執筆を続け,「タイムスリップ明治維新」,「タイムスリップ釈迦如来」,「タイムスリップ水戸黄門」などのタイムスリップ物以外にも,膨大な推理小説や歴史物を著している.多分,流行作家なのでしょう.すみません,世情に疎いものでして.

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