東海学生会第35回学生員卒業研究発表講演会 (大同工業大学) 2004年3月16日(火)

初出:2004/03/18 T.Shirai
更新:2004/03/19 T.Shirai

 日本機械学会という学会をご存知でしょうか? それ以前に「学会って何だ?」というのが大抵の学生の意見でしょう.我々高専の(特に専門科目の)教官の仕事は,教務,寮務,学生指導,というのが皆さんの目に触れるところでしょう.それゆえに「夏休みも秋休みも冬休みも春休みもあるなんて,高専職員は一般の社会人と比べてチョー楽チンじゃん」という誤解を与えているのだと思います.誤解されている点は”チョー楽チン”という点ではなく,我々には夏休みも秋休みも冬休みも春休みも無い,という点です.カレンダー通りに勤務していますし,年末年始の休み以外は夏休みすらありません(勿論,有給休暇はあります).では,学生が学校で勉強していない時に我々が何をしているのかと言うと,部活動の指導もありますが,やっぱり一番大事なのは研究です(もちろん学期中も研究は行っています).常に先端領域の研究を行うべく皆さんの目に見えないところで頑張っているのです.だからこそ,自信をもって授業を教えることができるのです.
 さて,話が逸れましたが,では学会とは何でしょう? ”学者相互の連絡、研究の促進、知識・情報の交換、学術の振興を図る協議などの事業を遂行するために組織する団体”(広辞苑)です.研究成果を同じ研究分野の研究者に対して報告するために,(1)論文の執筆・掲載,(2)講演会での発表,を行います.まぁ,乱暴に言ってしまえば,卒業研究のようなものです.研究した成果を論文にまとめ,それを発表する.そのための学術雑誌の編集・出版(掲載するには審査に通る必要がありますし,掲載料を払う必要があります)や講演会の準備や運営のための組織が学会です.日本中には様々な分野で研究を行っている学者が,それこそ山のように居ます.それぞれの分野に細分化した,同様に山のような数の学会が存在します.私が所属しているのは,ロボット関連の研究者が集まった日本ロボット学会,それと機械工学全般を網羅した日本機械学会の二つです.それぞれ年会費が必要で,教官は各人,自腹で年会費を払っています(1万円くらいかな?).
 日本機械学会は非常に大きな組織なので,いくつかの専門領域毎に部門に分かれています.それらの部門とは別に地域による支部という分け方もあります.鈴鹿高専は東海支部に属します.さらにその下に学生を主体とした日本機械学会東海支部学生会という組織があります.見学会や講演会,ソフトボール大会(私も2年ほど前に引率で参加し,その時は鈴鹿高専が優勝しました),そして卒業研究発表講演会があります.
 卒業研究発表講演会とは,東海支部に属する大学・高専の学生が卒業研究の研究成果を発表するための学術講演会です.発表者も座長も全て学生です.昨年度も精密工学実験室の学生2名が発表しました.そして本年度も続けて1名の学生(5M 田中信行君)が精密工学実験室を代表して発表を行いました.鈴鹿高専機械工学科からは彼を含めて4名が発表を行いました.
 さて,この講演会は毎年行われます.参加費は無料です.興味を持った学生は,学科・学年関係なく申し出があれば詳しく説明します.(発表は無理ですが)講演を聴くだけでも,とても勉強になりますので是非とも参加して下さい.

 今年の会場は大同工業大学です.名鉄大同町から歩いて直ぐです.

  
夕方に撮影した写真なので逆光になってしまいました...
(MPEG1: 440KB)

これがパンフレットの表と裏です.

(PDF: 4.7MB)

そしてこちらが講演一覧です.
(PDF: 32KB)

これ以外にも予稿集(1研究テーマ:A4×2ページ,合計265ページ)があります.発表する学生の所属する研究室には1部ずつ無料配布されますが,それ以外の人は当日の受付で購入する必要があります(1,500円くらいだったかな?).

発表風景です.講義室の一つを使用しています.写真には写っていませんが,もっと沢山の聴衆が居ます.

学生の発表以外にも企業の方の講演もあります.
(1)燃料電池ハイブリッド車の開発について/トヨタ自動車(株) FC企画室 主担当員 藤本佳夫氏
  
燃料電池車の開発を中心に,ガソリンエンジンとのハイブリッド技術を核として,燃料電池を含めた各種原動機のハイブリッド技術が今後の環境に優しい自動車作りのキーになるという話でした.燃料電池の実用化が最終ゴールとは捉えず,燃料の原材料の製造から輸送(Well-to-Tank)と,その消費(Tank-to-Wheel)までのトータルな燃料効率まで含めた効率化の議論は,化石燃料=悪者といった短絡的な議論(しかし啓蒙段階では充分な説得力を持った)から一歩先を見る上で新たな視点を与えてくれたのではないでしょうか.燃料電池にも最も効率の良い発電状態があります.急激な加速や急速な減速が得意では無いでしょう.そこを2次電池と組み合わせたハイブリッド化を行うことで平滑化しようという考え方は大いに説得力があります.

(2)超伝導リニアの開発状況/東海旅客鉄道(株) リニア開発本部 副主幹 大島 浩 氏
 
 リニアモーターカーって,海外では通じないって知っていました? Magnetic Levitation,略してMaglev(マグレブ)で通っているそうです.いま辞書で調べてみたところ,levitateには”(超能力で)空中に浮揚する”という意味だそうです.ちょっと胡散臭いですが,そこを”磁気によって”と補強することで,なんとなくワクワクするようなニュアンスを残したまま,うまいこと技術述語(technical term)化しています.もっとガチガチに頭の固い単語なのかと思っていました.でも,リニアモーターカーもカッコイイと思うけれどもなぁ.日本に最初の新幹線が登場する2年位前から(旧)国鉄ではリニアモーターカーの研究が始まっていたそうです.
 磁気を利用した鉄道にはLIMといった浮かび上がらないけれども磁力で前へ前へと引っ張る技術的に難易度の低く,コストの安い方法もありますが,これは高速を出すのには適していません.次世代と銘打つには磁気浮上が必要です.鉄輪で軌道上をゴリゴリと走る粘着式車両では350km/hしか出せない,という理論研究の結果もあったそうですが,これは実際の車両によって否定されました.350km/h以上で走れるそうです.
 現在,山梨県にある実験施設で走っている最新型では500km/h以上の速度を記録したそうですが,これは「500km/hくらいで止めた」だけであって,原理的には電力さえ充分に供給できれば,まだまだスピードアップは可能だそうです.ちなみに東京−大阪間500kmを1時間で走れる,という主張に対して学生から「加減速の時間を考慮に入れると不可能だ」という模範的な質問が発せられましたが,「約1時間で,と言う事にしています(笑)」とサラリと交わしたあたり,綺麗な質疑応答でした.0.3G程度の加減速を実験したという実験データも披露され「体験した人は面白かったと言ってました(笑)」というオチをつけて大いに会場を盛り上げてくれました.随分と場慣れした方のようです.
 ちなみにリニアモーターカーの磁気浮上の原理って知っています? 私は以前に調べてとても感心した記憶があります.今回もその点を丁寧に説明してくれました.もし知らない方は(下から磁石で持ち上げていると思っている方は特に)是非とも調べてみることをお勧めします.
例えば,
 http://www.linear-chuo-exp-cpf.gr.jp/chodendo/ や,
  http://www1.odn.ne.jp/~aaa81350/kaisetu/linear/maglev.htm
をどうぞ.
 私は以前,福岡県に住んでいたとき(’92年頃かな?)にバイクで1泊2日九州縦断ソロツーリングを敢行したことがあります.その時に宮崎県のリニアモーターカーの試験場も立ち寄りました(内之浦のロケット発射場/鹿児島宇宙空間観測所,にも立ち寄りました).1960年代生まれのボクにとって21世紀の未来とはリニアモーターカーの実用化だったのです.その後,試験車両の焼失やバブル崩壊などもあって,未だに実現の道は暗いままですが,一日も早く(宇宙ステーションの実現よりも先に)東京−大阪1時間を実現して欲しいものです.

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